国は「売掛債権」を活用した資金調達を推奨している
日本の中小企業の数は全企業の99.7%を占めており、実質中小企業が日本経済を支えていると言っても過言ではありません。
しかし1996年以降、日本の中小企業の数は減少傾向にあり、20年間でおよそ120万社減少しています。
中小企業が減少傾向にある理由は、後継者問題や働き方改革による生産性の減少など多岐に渡りますが、資金繰り問題もその中の1つです。
そこで経済産業省は、中小企業が抱えている資金繰り問題を解決するために売掛債権を活用した「ファクタリング」と「ABL(売掛債権担保融資)」の資金調達方法を推奨しています。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、保有している売掛債権をファクタリング会社に売却することで早期に現金化することができる資金調達方法です。
契約形態には、利用者とファクタリング会社で取引を行う「2社間ファクタリング」と売掛先も取引に参加する「3社間ファクタリング」の2種類があり、自身の状況に応じて選択することができます。
ファクタリングのメリット・デメリットは以下のとおりです。
ファクタリングのメリット
ファクタリングのメリットは以下のとおりです。
1.最短即日で資金調達できる
ファクタリングでは、最短即日で資金調達することが可能です。
借り入れではなく売掛債権の売買であるため、審査が簡易的かつスピーディーに進められる傾向にあります。
また、ABLと比べて必要書類も少なく、原則担保・保証人不要で利用することができるため、利用の準備にも時間を要しません。
資金繰りの悪化や急な出費が発生した際など、緊急性の高いケースでも活用することができることは利用者にとって大きなメリットだといえるでしょう。
2.自社の信用情報に関わらず利用できる
ファクタリングでは、自社の信用情報に関わらず資金調達することが可能です。
先ほども述べたように、ファクタリングは借り入れではなく売掛債権の売買であるため、審査では売掛先の信用力が重視されます。
そのため、赤字決算や税金滞納、債務超過など、ABLの審査ではマイナスとなる要素を抱えている企業でも問題なく利用することができます。
銀行融資やABLの審査に落ち、資金繰りがひっ迫している状況でも利用できることは、利用者にとって大きなメリットだといえるでしょう。
3.貸し倒れリスクを回避できる
ファクタリングを利用することで貸し倒れリスクを回避することができます。
ファクタリングでは、原則償還請求権なしの契約となるため、売掛債権をファクタリング会社へ売却後に、売掛金が未回収となった場合でも利用者は弁済を求められることはありません。
そのため、売掛先の倒産や経営悪化による貸し倒れリスクを回避することができるのです。
ただ、銀行系のファクタリング会社では償還請求権ありの契約となるケースもあるため、注意が必要です。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングのデメリットは以下のとおりです。
1.手数料が高い
ファクタリングはABLと比べて手数料が高い傾向にあります。
手数料の相場は、2社間ファクタリングで10%~30%、3社間ファクタリングで1%~9%ほどです。
利息制限法のように手数料の上限を規制する法律がないため、悪徳業者から高額な手数料を請求される可能性もあります。
しかし、利用するファクタリング会社によっては低い手数料で利用することも可能であるため、会社選びが重要となります。
2.調達できる金額に上限がある
ファクタリングは、保有している売掛債権を早期に現金化する資金調達方法であるため、売掛債権の額面以上の資金調達を行うことはできません。
そのため、売掛債権の額面が調達したい金額を下回っている場合は、ABLや銀行融資の利用をおすすめします。
しかし、複数の売掛債権を保有している場合は、ファクタリングを利用して希望金額を調達できる可能性もあります。
ABL(売掛債権担保融資)とは
ABLとはAsset Based Lendingを略したもので、日本語にすると「動産担保融資」となります。
銀行融資の場合は、融資を受ける際に土地や建物などの不動産を担保に入れる必要があるため、不動産を保有していない企業が融資を受けることは難しい状況にありました。
しかし、ABLでは不動産だけでなく売掛債権や在庫などの動産を担保に入れて融資を受けることができます。
ABLのメリット・デメリットは以下のとおりです。
ABLのメリット
ABLのメリットは以下のとおりです。
1.信用情報に問題を抱えている企業でも融資を受けられる
通常の融資では、利用者の信用情報や経営状況が重視されますが、ABLでは赤字決算や税金滞納、債務超過など信用情報に問題を抱えている企業でも融資を受けられる可能性があります。
これは、動産や売掛債権を担保に入れることによって、金融機関側が損失を受けるリスクが軽減されるからです。
仮に利用者が経営悪化や倒産などの理由により返済不能に陥った場合でも、担保である動産や売掛債権を換金することで損失を回避することができます。
このようにABLでは、担保によって損失リスクを軽減することができるため、通常の融資よりも審査が柔軟な傾向にあるのです。
2.ファクタリングよりも多額の資金調達が可能
ABLでは、ファクタリングよりも多額の資金調達が可能です。
ファクタリングは、売掛債権を早期に現金化する資金調達方法であるため、売掛債権の額面以上の資金調達を行うことはできません。
一方、ABLは売掛債権や動産を担保とすることで受けられる融資であるため、利用者の信用情報や経営状況次第では、売掛債権の額面以上を資金調達できる可能性があります。
そのため、保有している売掛債権の額面以上の資金調達を行いたい場合はABLの利用をおすすめします。
3.ファクタリングよりも手数料が低い
ABLの利息は、ファクタリングの手数料よりも低い傾向にあります。
ABLの利息は、利用する金融機関によって異なりますが、年利2%~5%が相場です。
たとえば、ABLを利用して1,000万円を1年間借り入れた場合、年利2%であれば年間に支払う利息は20万円となります。
一方、ファクタリングの手数料相場は2社間ファクタリング10%~20%、3社間ファクタリング1%~9%ほどです。
ファクタリングを利用して1,000万円の売掛債権を手数料10%で売却した場合は、100万円の手数料を支払う必要があります。
ABLの返済期間によっても異なりますが、短期的な資金調達であれば支払い額の低いABLの方がよいでしょう。
ABLのデメリット
ABLのデメリットは以下のとおりです。
1.ファクタリングよりも資金調達までに時間がかかる
ABLの最大のデメリットは、ファクタリングよりも資金調達までに時間がかかることです。
ABLの審査では、利用者の信用情報や経営状況に加え、担保に設定した動産や売掛債権の価値を詳細に調査するため、資金調達までに2週間~数カ月ほどかかります。
一方ファクタリングでは最短即日で資金調達することが可能です。
このように資金調達スピードに関してはファクタリングの方が圧倒的に早いため、資金繰りの悪化や急な出費など、緊急性の高いケースではファクタリングの利用をおすすめします。
2.売掛先の倒産によって一括返済を求められる可能性がある
ABLを利用する際に売掛債権を担保に設定した場合、売掛先の倒産によって一括返済を求められる可能性があります。
これは担保として設定した売掛債権の価値がなくなることで、金融機関側が損失を受けるリスクが高くなるからです。
長期的な返済を計画していたにも関わらず、一括での返済を求められてしまった場合は、資金繰りが悪化するだけでなく、最悪の場合連鎖倒産に陥ってしまう可能性があります。
ファクタリングとABLの5つの違い
ファクタリングとABLは、どちらも売掛債権を活用できる資金調達方法です。
似たようなイメージを持たれている方もいるかと思いますが、実は明確な違いがあります。
本章では、ファクタリングとABLの違いを5つご紹介します。
1.契約内容
ファクタリングとABLでは、そもそも契約内容が異なります。
ファクタリングは、売掛債権を売却する資金調達方法であるため、単なる「売買契約」です。
ファクタリング会社に対して売掛債権を売却後、売却した売掛債権を回収した時点で契約が完了となる短期的な契約となります。
一方ABLは、売掛債権や動産を担保に借り入れを行うため、通常の融資と同様に「金銭消費貸借契約」です。
融資ですので、借り入れた金額を金融機関側に完済した時点で契約が完了となります。
利用者側の財務状態にもよりますが、長期的な契約となることが多い傾向にあります。
2.売掛先が支払不能となった場合の影響
ファクタリングとABLには、売掛先が支払不能となった場合に受ける影響にも違いがあります。
ファクタリングでは、償還請求権なしの契約が主流となっているため、ファクタリング取引後に売掛先が支払不能となった場合は、売掛債権を買い取ったファクタリング会社側が損失を受けることになります。
そのため、ファクタリング取引後に売掛先が支払不能となった場合でも、利用者が損失を受けることはありません。
一方、ABLでは売掛債権を担保に設定しているだけなので、売掛先が支払不能となった場合は、利用者自身が損失を受けることになります。
また、上述したように担保に入れた売掛債権の回収が不可能になった場合は、借り入れた金額を一括で返済する必要があります。
この時一括返済する金額を保有していなければ、資金繰りが悪化し連鎖倒産に陥ってしまう危険性があるのです。
売掛先が支払不能となる可能性が少しでもある場合は、ABLではなくファクタリングを利用するようにしましょう。
3.資金調達スピード
ファクタリングとABLは、資金調達スピードにも違いがあります。
利用者とファクタリング会社で取引を行う2社間ファクタリングでは、最短即日で資金調達することが可能です。
また、手数料を抑えられる代わりに売掛先への承認が必要となる「3社間ファクタリング」であっても1週間ほどで資金調達することができます。
一方ABLでは、利用者の信用情報や経営状況、担保の価値を詳細に調査するため、資金調達までに2週間~数カ月かかるケースがほとんどです。
そのため、早期に資金調達を行いたい場合は、ファクタリングの利用をおすすめします。
4.自社の信用情報が審査に与える影響
ファクタリングとABLでは、自社の信用情報が審査に与える影響にも違いがあります。
ファクタリング審査では、売掛先の信用力と債権の内容が重視されるため、自社の信用情報が審査に与える影響は少ない傾向にあります。
そのため、赤字決算や税金滞納など、自社の信用情報に問題を抱えている方でも、売掛先の信用力に問題がなければ利用できる可能性は高いといえます。
一方、ABLでは自社の信用情報も審査対象となるため、赤字決算や税金滞納などの問題を抱えている場合は融資を受けられない可能性があります。
売掛債権を担保にすることから、自社の信用情報に問題を抱えている状態でも融資を受けられる可能性もありますが、その可能性はファクタリングよりも低いといえます。
自社の信用情報に問題を抱えている状態で資金調達を行いたい場合は、ファクタリングを利用するようにしましょう。
5.手数料や利息
ファクタリングとABLには、手数料や利息の相場にも違いがあります。
ファクタリングを利用する際は手数料が発生します。
手数料の相場は、2社間ファクタリングで10%~20%、3社間ファクタリングで1%~9%ほどです。
ABLの利息と比べて高い傾向にあり、年利に換算すると100%を超えてしまうケースもありますが、短期的な支払いとなるため契約後の資金繰りを安定しやすい傾向にあります。
一方ABLを利用する際は利息が発生します。
利息の相場は、年利2%~5%ほどでファクタリングの手数料に比べて低い傾向にあります。
しかし、長期的に返済を行う必要があるため、資金繰りの大きな負担になることも考えられるでしょう。
ファクタリングとABLのまとめ
今回はファクタリングとABLのそれぞれのメリット・デメリットや違いについて解説させて頂きました。
ファクタリングとABLは、ともに売掛債権を活用した資金調達方法として国も利用を推奨しています。
しかし、それぞれの資金調達方法には明確な違いがあるため、自社の状況に合わせて利用することが重要です。
ファクタリングとABLの違いを明確に理解し、自社の資金需要を満たせるように活用していきましょう。