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取引信用保険とは、売掛先の倒産や経営悪化などの理由により、売掛債権が回収できなくなった場合に、売掛金の貸倒れリスクを回避することができる保険サービスです。現在、日本の企業間取引では「掛け取引」が主流となっています。掛け取引では、商品やサービスの提供から実際に代金が入金されるまでに30~60日ほどの支払いサイトがあるため、資金繰りの悪化や貸倒れなどのリスクが生じてしまいます。もし、売掛債権を回収するまでに売掛先が倒産や経営悪化などの理由により、支払い不能となった場合は、売掛金を回収することができないため、会社は大きな損失を受けることになります。また、資金繰りが悪化してしまうと、「売上は上がっているが手元に現金がない」という状況に陥り、最悪の場合は黒字倒産になってしまうケースもあります。しかし、取引信用保険に加入していれば、損失に対して保険金が振り込まれるため、さまざまなリスクに備えることができます。
取引信用保険で補償対象となるのは「売掛債権」と「手形債権」です。また、取引信用保険に加入すると、売掛先が破産や民事再生の手続きを開始したときや、差し押さえ通知が発せられたときなどに保険金が振り込まれます。取引信用保険で受け取ることができる保険金の限度額は、保険会社が売掛先を調査し、倒産や破産などの危険性によって決定されます。
取引信用保険の保険料は、保険会社が設定した保険金の支払限度額に対して1~3%が相場となっています。例えば、支払限度額が1000万円、保険料率は2%の場合【1000万円×2%=20万円】が年間の保険料となります。保険料率は、加入会社や補償の対象となる取引先によって変動するため、できるだけ安い保険料で加入したい場合は、保険料率の低い保険会社を選ぶようにしましょう。
取引信用保険に加入することで、「掛け取引」で発生するさまざまなリスクに備えることができます。取引信用保険のメリットは以下のとおりです。
取引信用保険に加入すれば、売掛先の倒産や経営悪化などの理由により売掛債権が回収できなかったとしても、保険金で未回収の売掛金を補填することができるため、資金ショートのリスクを抑えることができます。また、売掛先の貸倒れによる損失を受けることもないため、資金繰りの悪化も防ぐことができます。資金ショートや資金繰りが悪化してしまうと、新規受注や支払いに資金を充てることができなくなるため、最悪の場合倒産してしまう可能性もあります。資金力のある会社であれば、1度や2度売掛債権が未回収となった場合でも、持ち直すことができますが、資金力のない企業であれば1度の未回収で倒産となってしまう可能性もあるので、取引信用保険は有効であるといえます。
取引信用保険に加入し、売掛債権を保全することによって、金融機関からの信用力が高まります。売掛先の未払いにより焦げ付いてしまった売掛債権を保有していると、金融機関や取引先から資金ショートになる可能性を懸念され、今後の取引に影響を及ぼしてしまう可能性があります。また、売掛金の未回収に伴い、融資などで新たに資金を調達する必要がないため、貸借対照表の肥大化を抑えることができ、金融機関や取引先からの信用力を高めることができます。
新規取引先と取引を進める際は、取引先の経営状況が分かりづらいため、貸倒れリスクが予測できないケースがあります。しかし、取引信用保険に加入していれば、貸倒れによって損失を受けた場合でも、保険金が振り込まれるため、リスクが高そうな取引先とでも、安心して取引を進めることができます。保険によってさまざまなリスクを回避することができるため、新規取引先を開拓しやすくなるといえるでしょう。
取引信用保険には上記のようなメリットがある一方で、デメリットもあります。取引信用保険のデメリットは以下のとおりです。
取引信用保険に加入する際の契約内容にもよりますが、一般的に補償対象を選ぶことができません。そのため、基本的には取引先が少ない場合は全社、多い場合は「売上上位10社」「債権残高の上位10社」などの条件が提示されます。また、取引信用保険の対象となるのは、継続的な取引を行っている企業なので、継続性のない単発案件は保険の対象外となる可能性が非常に高いです。補償対象を自由に選べないため、貸倒れリスクの高い会社や売掛金の多い取引など、条件を指定して保険をかけるといった柔軟な利用はできません。
取引信用保険に加入する際は、保険会社による売掛先の審査があります。この審査結果によって、保険料や保険金の支払限度額が決定されます。売掛先の経営状況や信用力が低い場合は、保険料が高くなったり、保険金の支払限度額が低く設定されてしまう可能性があります。また、保険会社が売掛先を危険な会社だと判断した場合、保険自体に加入できないこともあります。
取引信用保険が取り扱っている売掛債権は、基本的に商品を扱っている債権が対象となっており、建設業界やWeb業界などの「請負債権」は利用対象となりません。そのため、取引信用保険は、利用できる業種が限られています。
取引信用保険では、売掛先の倒産や経営悪化などの理由により、保有している売掛債権が不良債権となった場合のみ、保険金が支払われます。そのため、取引信用保険は資金調達目的で利用することはできません。資金調達目的で、売掛債権を現金化したい場合はファクタリングを利用しましょう。
ファクタリングと取引信用保険は、どちらも売掛債権を扱っているサービスであるため、似たようなサービスであると理解をしている方も多いのではないでしょうか。本章では、ファクタリングと信用保険の違いについて解説していきます。
取引信用保険は、売掛先の倒産や経営悪化などの理由により、売掛債権の回収が不可能となった場合の備えとして利用されています。売掛債権が不良債権となってしまった場合、資金ショートや資金繰りの悪化の原因となります。また、不良債権を保有していることで、金融機関からの融資が受けにくくなったり、取引を断られてしまう可能性があります。自社の資金力が低い場合や売掛金の金額が大きい場合は取引信用保険に加入するようにしましょう。一方ファクタリングは、資金調達を目的として利用されています。ファクタリングは、売掛債権を本来の支払期日より早く現金化することができるサービスで、審査通過率も高いことから多くの中小企業が利用しています。また、原則として償還請求権がないため、貸倒れリスクを回避する目的でも利用することができます。
取引信用保険では、補償対象を自由に選択することができないうえ、複数の売掛先に一括で保険をかける必要があります。貸倒れリスクの高い会社や売掛金の多い取引を選択して保険をかけることができないため、いざ売掛債権が未回収となった場合でも保険の対象外となっている可能性もあります。一方ファクタリングは、自社が取引を行っている売掛先のなかから、自由に選択することができます。また、取引信用保険と違い、売掛先が1社のみでも利用することができます。
取引信用保険の手数料(保険料)は、保険金の支払限度額の1~3%ほどとなっています。例えば、保険金の支払限度額が5000万円で保険料率が3%の場合、保険料は150万円となります。一方ファクタリングの手数料は、売掛債権の1~20%ほどとなっています。例えば、売掛債権が5000万円で手数料率が10%の場合、手数料は500万円となります。取引信用保険よりファクタリングの方が高額な手数料を支払うことになりますが、取引信用保険は保険金が支払われるような事態が起こらなければ、無駄なお金となってしまいます。取引信用保険の保険料は、掛け捨てであるため、利用する際はできるだけ手数料の低い保険会社を選ぶようにしましょう。
今回はファクタリングと取引信用保険の違いや取引信用保険のメリット・デメリットについて解説させていただきました。取引信用保険は、売掛先の倒産や経営悪化などの理由による貸倒れリスクを回避することができる保険サービスです。ファクタリングよりも低い手数料で、さまざまなリスクを回避することができるため、多くの中小企業が利用しています。一方ファクタリングは、売掛債権を支払期日前に現金化することができるサービスで、資金調達目的で利用されています。貸倒れリスクの回避や資金繰りの改善を必要としている会社におすすめの資金調達方法です。取引信用保険とファクタリングの違いを理解し、自社に合ったサービスを利用しましょう。