ファクタリングは融資とは異なり、売掛債権の有償譲渡になります。債権をどうとらえるのか、ここを間違えると正しい経理処理ができません。
ファクタリング独特の経営処理のあり方についてもしっかり身につけていただき、税務調査などの指摘されるリスクを減らしましょう。
ファクタリングの経理処理が正しく行われることで、財務諸表が改善し、融資を受けたり補助金等を申請したりする際にプラスになります。
さまざまな効果をもたらすためにもファクタリングの正しい経理処理をここで確実に身につけてください。
目次
ファクタリングを経理処理する場合、注意していただきたいことがあります。 それは
ということです。これらを踏まえて経理処理をしていきます。
ファクタリングは非課税取引となります。なぜ消費税がかからないのでしょうか?
もともと消費税は広く財やサービスの売買の際に発生する税金ですが、売掛債権の売買はそれに該当しないのでしょうか?
消費行為という消費税の原則になじまない取引については、国税庁が「非課税取引」として定めをしています。
(2) 有価証券等の譲渡
国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡
ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引には当たりません。
国税庁:「非課税となる取引」より
ファクタリングは売掛債権の有償譲渡ですが、売掛債権が上記の「金銭債権」に該当します。
よって、ファクタリング取引については消費税が発生しない非課税取引になります。ファクタリング手数料も非課税取引になります。税込み価格ではなく、税抜き価格でもなく、そもそも消費税を受け取ってはいけない取引になります。
もし、ファクタリング手数料について、消費税の記載があれば、そのファクタリング会社は、悪徳企業、ブラック企業か、税についてまったく無知な企業になります。いずれにせよ、そのような企業とのお付き合いは絶対に避けるべきです。
ファクタリング取引は消費税が発生しない非課税取引ですが、売掛金が発生した取引(みなさんがクライアントの商品やサービスを提供した商行為)については、当然消費税が発生します。
50,000円のものを売れば5,000円(軽率減税対象外の消費税10%)の消費税は当然発生します。
いちばん最初のみなさんが売掛債権を得た取引はこうなります。
みなさん(債権者):A社
取引先(債務者):B社
A社がB社に50,000円の商品を掛売で販売。
借方 貸方
売掛金 ¥55,0000 売上 ¥50,000
仮受消費税 ¥5,000
50,000円(商品価格)+5,000円(消費税10%)、計55,000円が売掛金(売掛債権)になります。
ファクタリング利用時の経理処理(仕訳)について考えます。ここでは上の「A社がB社に50,000円の商品を掛売で販売」を元に『A社がB社に50,000円の商品を販売した。売掛金入金日前に資金調達の必要がありファクタリングによって現金化した』という事例を設定します。
・6月末日締め
・翌々月末日(8月31日)払い
・サイト60日
・掛け目は今回考えない(買取率100%と仮定する)
の売掛債権を仮定します。 実際の経理処理は以下のようになります。
(6月19日)
借方 貸方
売掛金 ¥55,000 売上 ¥50,000
仮受消費税 ¥5,000
「仮受消費税」の勘定科目を使わずに、単に
借方 貸方
売掛金 ¥55,000 売上 ¥55,000
とすることもできます。
(8月4日)
借方 貸方
未収入金 ¥55,000 売掛金 ¥55,000
(8月7日)
借方 貸方
現金預金 ¥51,700 未収入金 ¥55,000
売上債権売却損 ¥3,300
「売上債権売却損」はファクタリング手数料ですが「支払手数料」や「雑損失」などの勘定科目を使っても良いです。いずれの勘定科目でも、ファクタリング手数料は経費に計上できます。
この「売上債権売却損」(ファクタリング手数料)3,300円が非課税になります。もし「税込み」で請求された場合は違法です。非課税取引であることを契約書などで確認してください。
3社間ファクタリングの場合は、売掛金支払日にファクタリング会社が直接B社から売掛金を回収するので経理処理は終了です。
しかし、2社間ファクタリングの場合は、もう1つ経理処理があります。
(8月31日)
借方 貸方
現金預金 ¥55,000 預り金 ¥55,000
(8月31日)
借方 貸方
預り金 ¥55,000 現金預金 ¥55,000
これで経理処理が終わりました。特に2社間ファクタリングの場合は、少し厄介なので注意して行うようにしてください。
ファクタリングと似た手法に手形の割引があります。手形割引の事例の経理処理をここで見てみましょう。
手形譲渡は「直接減額法」「評価勘定法」「対照勘定法」という3つの経理処理方法がありますが、今回はいちばんポピュラーな「直接減額法」における仕訳例を紹介します。
(事例) B社からの受取手形 55,000円(期日8月31日)を銀行で割引し、割引料3,300円を控除(割引)した残金47,000円が当座預金に振込された。
借方 貸方 摘要
当座預金 ¥51,700 受取手形 ¥55,000 B社期日8月31日
支払利息割引料 ¥3,300 手形割引料
ファクタリングの仕訳と似ていますが、手数料(銀行に割引される金額)については、「売上債権売却損」の代わりに「支払利息割引料」の勘定科目を使用します。「支払利息割引料」は、金融機関からの借入の返済利息の勘定科目としても使われるもので、どの会計ソフトにもあるお馴染みの勘定科目です。
ファクタリング手数料については「支払利息割引料」の勘定科目は使えません。
手形割引の場合、銀行支払いは、割引を行った日から満期日まで「利息」であり、利息制限法の適用を受けます。 一方ファクタリング手数料は利息ではないので、利息制限法を超える手数料でも合法です。手形割引の方が経理処理のステップも少なく、簡便に処理できますが、それは手形法などでしっかり規定されている取引だからという側面もあります。 ファクタリングは新しい資金調達手段ですので、経理処理をしっかり行うことで、信頼を得る必要があります。
ここまで説明したファクタリングの経理処理が正しく行われると、大きく分けて以下の2つのメリットが得られます。
これは、単にファクタリングは緊急の資金調達手法であることではなく、中長期的な経営戦略、財務改善の手法としても有効なことを示しています。
ファクタリングを行うことで、貸借対照表上に「資産」として計上されていた売掛債権、売掛金が現金化します。売掛金は取引先(債務者)から支払いを受けるまで、貸借対照表上の資産部分を大きくします。特に支払いまでのサイトが長い場合、不良債権化している場合などは、無駄に資産勘定を大きくしてしまいます。
資産勘定が大きいと、会社の貸借対照表のボリュームも大きくなり、金融機関などからは「非効率的な経営」を行っているとみなされます。
「オフバランス化」はファクタリングによって資産や負債勘定の数字を減らし、効率的で機動的な経営を行うように貸借対照表をスリム化することを指します。
もしファクタリングによらず、融資によって資金調達すると、負債(借入金)が増えます。「資産=負債+総資産(資本)」ですから、借入することで、資産も負債も絶対値が増え、貸借対照表は肥大化します。ファクタリングによる資金調達ならば貸借対照表が肥大化せず、「自己資本比率」や「ROA(総資産利益率)」など、金融機関やクライアントからの評価項目の点数が上がります。 企業の健全性を表す指標であり、ファクタリングによってこれらを向上させられます。
ファクタリングの経理処理をすることで「キャッシュフロー」が改善します。ファクタリングは「借入」「負債」ではないので、期日前に売掛債権を現金に変換できます。
経理処理上「現金の増加」ということになります。現金が増加すれば今すぐ使えるキャッシュフローが増えます。企業のキャッシュフロー計算書の内容も大きく改善します。もし、売掛債権が焦げ付き、不良債権化してしまうと、資産のはずがいつまでたってもキャッシュにならないという困った事態に陥ります。
ファクタリングはそのようなリスクを減らし、キャッシュフロー経営を後押しし、結果的に自社の対外的信用度を高める効果をもたらします。 オフバランス化もキャッシュフロー増も、ファクタリングの経理処理の結果、自社の「成績表」「通知表」も数字を改善する効果があります。
ファクタリングの経理処理の方法を知っていただきましたが、手形割引とは異なる部分もあり、細かい処理も行うことが必要です。しかし、結果的にファクタリングの経理処理によって、自社の対外的評価を上げる「オフバランス化」や「キャッシュフロー増」という効果をもたらすことがわかりました。
つまり、ファクタリングをすることで、「狙って」自社の経営改善に資することが可能になります。ファクタリングは金融ブラックとは無縁であり、自社の信用情報にも記載されない資金調達、現金化手法です。現金が手元になく窮余の策でやむなく行うばかりではありません。
手数料も支払利息割引料勘定ではないのですから、借入にはなりません。負債を増やさず、借入履歴にもならないことは、ファクタリングの経理処理から理解できます。 ぜひ、しっかりした経理処理、仕訳とともに、中長期的な戦略としての「攻めのファクタリング」についてもご理解いただければと存じます。